『入浴福祉新聞 第65号』(平成10(1998)年9月1日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
1人ひとりを大切にする入浴介護をしてますか
[福祉はドラマ]といわれます。主人公(対象者)を中心に、家族や専門家が喜怒哀楽を繰り広げるわけですが、とりわけ、訪問入浴介護のように、対象者の家庭にあがりこみ、裸になっていただくような福祉では、対象者の過去・現在・未来が赤裸々になり、[物語]も生まれやすくなるのではないでしょうか。
訪問入浴介護は、[ハコモノ福祉]とは違って、そうした対象者1人ひとりの物語を書き残すことが、後世への遺産ともなります。このほど、デベロ介護センターのスタッフが、毎日の業務のなかで[思うコト]を綴ってくれました。皆様の職場でも、感じたことをそのままノートなどに書き残しておいたらどうでしょうか。きっと自分自身にも役立ち、これから福祉の世界に入ってくる若い世代にも参考になると思います。
★些細な注意も怠らない・・・腕時計騒動の教訓★
リウマチが原因で寝たきりになった80代の女性Kさんを訪問して、足の指を拝見した時には驚きました。キャンディの包みをキュッと丸めたような状態になっていたのです。
息子の奥さんが、よく介護をされていましたが、さすがに丸まった指の間までは清潔にするのが難しいらしく、垢がかなり付着している状態でした。
Kさんは痴呆も少し始まっていたため、私たちでも、その指をきれいにするのはたいへんでした。
そのKさんが大切にしているのが、四六時中身につけている自分の腕時計です。ある入浴日に、時計を外したものの、Kさんが置き場所を忘れてしまい、「あの人たちが盗んで持っていったんだ」と、あとで大騒動になったようです。
時計の置き場所を確認し、入浴後にちゃんと、Kさんの腕にはめてさしあげれば、こうしたことは起きないわけで、しきりに反省した次第です。たいした問題ではないように思えますが、対象者との信頼関係を築くためにも、些細な注意も怠らないようにしたいものです。
(T・M)
★介護浴槽まで張って来た90歳のNさん★
いまはもう亡くなられましたが、90代の女性Nさんのことは忘れられません。
ほとんど寝たきりの生活だったNさんのお世話は、長男の奥様がしていたのですが、なにしろその奥様も70代の高齢。たまにお孫さんが手伝いに来るものの、「腰が痛いんですよ・・・関節が痛みます」とよく訴えていました。
それでも、入浴車が到着すると、その日のNさんの体調を、私たちにすぐ教えてくれるほど介護に熱心でした。
Nさんの清潔に気をつかっていた奥様でしたが、やはり浴室での介護は無理で、清拭だけでした。それだけに、入浴車の訪問をずいぶんと楽しみにしてくれました。
しかも、ほとんど寝たきりのNさん自身が、介護浴槽の準備が済むと、自分の部屋から這って来るのです。私たちも思わず、「Nさん頑張って!」と声援を毎回のように送りました。まさに[お風呂のもつ意欲喚起力]です。
もちろん、入浴中のNさんの嬉しそうな顔も忘れられません。時折、Nさん宅の前を通ると、昨日のように思い出されます。
(T・M)
★ちょっとした気づかいで快適な在宅生活が・・・★
Bさんは、朝目覚めたときから夜ベッドに入るまで、ほとんど車椅子ですごされています。
家のなかでも冬の車いす生活は、足腰が冷えますので、家族は電気毛布で下半身をくるむ気づかいをしています。しかも足元には、座布団を丸めたマットを敷いています。
おかげでBさんは、「背中もポカポカと温かい」そうで、足に浮腫もできません。介護はちょっとした配慮があるかないかで、大違いです。
(F・K)
※発行当時の原稿をそのまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。
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