『入浴福祉新聞 第108号』(平成21(2009)年4月1日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
家庭内介護疲労防げ!立ち上がる市民
訪問入浴の利用家庭は虐待少ないとの研究も
ご承知のように介護保険制度は、要介護になっても住み慣れた地域と家で暮らせるようにする…家族の介護負担も減らす…といった[在宅重視]と[介護の社会化]を理念に掲げています。
しかし、理念と現実には大きな落差があり、介護に疲れ果て極限にまで追い込まれた家族が要介護者を殺害してしまう暗い事件が後を絶ちません。
殺害に至らないまでも、在宅の要介護者に男性配偶者や同居の長男が暴言を浴びせたり、殴る蹴るの暴行におよんだりなどなどの虐待も減少するどころか、増加の傾向にすらあります。
介護が原因の殺人も虐待も、いつ終わるか定かではない家庭介護に疲労困憊し、悩みを打ち明ける友人や知人もいないといった現代家庭の孤立化現象が根底にあるわけで、介護保険制度が充分に機能していないことを象徴していると言えるでしょう。とくに、家庭介護者への直接的支援制度が介護保険にはスッポリと欠落している点は改善の余地ありでしょう。
数年前に出版されて関係者に衝撃を与えた『介護殺人』(日本福祉大学の加藤悦子教授著)でも指摘されているように、介護保険制度が施行されても、介護殺人は年間30~40件が発生し、減少傾向はみられませんし、また『高齢者虐待防止法』が施行されても、虐待が減ってはいません。反対に、法律ができたために、把握件数が増加してきた、ともいえるのが現状なのです。
虐待も介護殺人も、家庭介護を一人で背負い込み、慢性的なストレス状態となり、良き介護者になろうとして焦り、心身共に極限に追い込まれ、結果的に介護の対象者を否定するような暴力行為に出てしまうわけです。
こうした中で、最近は介護をめぐる悲惨な実態を看過すべきではない、と市民団体が運動に取り組むニュースも散見され始めました。
例えば、神奈川県伊勢原市の「となりの介護」(川内潤代表/NPO法人申請中)というグループでは、今年の1月に「介護殺人を食い止める一言を考える討論会」を開催し、家庭介護者の心身の健康を保つ具体的な方法などを助言したりしました。
介護に関わる虐待や殺人は、サービスを積極的に利用していない家庭で発生しやすい、といわれていますが、この[介護サービスと介護に関わる虐待や殺人]の相関関係を研究している富山大学経済学部の両角良子准教授によりますと、やはりケアプランに対する満足度が高い家庭では虐待が少ないと結論付けています。
この両角良子准教授の研究でたいへん興味深いのは、訪問介護、訪問入浴介護、訪問リハビリ、などを利用している家庭では虐待の発生が少ないといった点です。
とりわけ訪問入浴介護では、要介護者の健康状態を把握して、身体に直接触れる介護であるため、家族による暴力行為の痕跡が発覚しやすいため、結果的に虐待を抑制している、としていてたいへん注目されます。
※発行当時の原稿をそのまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。