『入浴福祉新聞 第64号』(平成10(1998)年6月1日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
「末期ガンを宣告され激痛と闘うTさんの訪問入浴に取り組んで」
大分県九重町社会福祉協議会 看護婦 熊谷 京子
☆「入浴が苦痛を開放してくれるんです」
医師の往診と週3回の訪問入浴を受けることになったものの、Tさんは8月中旬から、肛門の周囲や腰から背中にかけて、痛みが激しくなり、モルヒネは内服から注射に切り替わりました。しかも、血尿の持続、吐気による食欲不振も続き、衰弱感が現れてしまいました。
そこで、大分市内の主治医に、病状と今後の入浴方法を相談すると、①血尿は腫瘍からのもので、膀胱洗浄で経過を見ている・・・②カテーテルの長期留置による感染症を防ぐため、抗生剤の使用を始めた・・・③現在は、痛みよりも血尿が続いていることの不安感が強いため、心身の安静をはかることが重要で、入浴は本人の希望があれば継続してもらいたいし、入浴で感染予防や不安感の緩和が期待できる・・・などの意見をいただいたのでした。
この後の訪問で、「Tさん・・・お風呂に入れそうですか?」と訊ねると、「入浴だけが楽しみです・・・ひとときだけでも、いろいろな苦痛から解放される思いがするんです・・・目をつぶると、このまま死んでしまうのでは、との不安になるし・・・みんなとも話したいし・・・」と訴えるのです。
とはいえ、8月下旬になると腰部から右大腿部にかけての痛みが激しくなり、鎮痛剤の注射も効果がほとんど得られないほどになりました。そのため、大分市内の病院に入院し、痛みに対する処置(神経ブロック)を受けました。
以後、痛みは軽減し、モルヒネの内服量を調節した後、退院となりました。
でも、10月になると再び腰部から右下肢にかけての激痛があらわれ、モルヒネの注射を1日に何回も受けるようになります。これまで介助すれば座れたのですが、疲労感のため、起き上がることが困難となりました。そのため、入浴の際にも、移動もカラダを洗う時も、すべて寝たままの姿勢で行うことにしました。
ズボンの着脱時には、健側の左下肢を曲げて、ふんばってカラダを浮かしてもらいながら、介助員が臀部から大腿部にかけて十分に支えながら、ズボンを上げ下げします。寝たままの移動は、上半身を抱える介助員の方に両手を回してもらい、腰部と大腿部、大腿部と下腿部を、介助員3名が呼吸を合わせて行いました。移動は、Tさんの不安が最も大きいため、声掛けを充分に行いました。
前回の記事
「末期ガンを宣告され激痛と闘うTさんの訪問入浴に取り組んで」①~『入浴福祉新聞 第64号』より~
※発行当時の原稿をそのまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。
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