『入浴福祉新聞 第31号』(平成2(1990)年6月1日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
入浴の歴史ものがたり⑦
立井 宗興
ところで、今日でいう「石鹸」はいつごろ日本に伝来したのだろうか。
中世と近世の境界期、16世紀後半の安土桃山時代とするのが定説になっている。
ポルトガル船の種子島漂着以後、ヨーロッパ商船が次々と日本へやって来るようになった。
このとき、諸々の物品とともに、ベネチヤやマルセーユのソープが上陸したらしい。
それを「しゃぼん」と日本人は呼んだ。
戦国の武将たちは、鉄砲と同様に、ソープの威力にも驚き、博多の商人から2個の「しゃぼん」を贈られた石田三成は、丁重な礼状を送ったほどだ。しかし、この時代を期して「しゃぼん」が日本に普及したかというと、そうではなく、薬用に限られていた。入浴用には古来からの「ヌカ袋」が続くのである。
キリシタンものとして、「しゃぼん」はタブー視さえされたためだ。
「石鹸」というのは実は中国語で、この製法がもたらされたのは、徳川幕府成立の頃である。「しゃぼん」が油脂とアルカリの化合物であるのに対し、「石鹸」は、草の灰汁ウドン粉をこねて固めた混合物であった。
むろん「しゃぼん」と「石鹸」とでは洗浄力も違うが、江戸時代に両者が混同され、ヨーロッパの「しゃぼん」もいつしか「石鹸」と言うようになってゆく。
その石鹸が日本で最初に製造されたのは、明治5~6年。京都府立の研究所と横浜の民間人の手によるものである。
だが、それでも“石鹸薬用”時代は続き、花王石鹸が明治20年代に市販を始めてから、ようやく大衆化してゆく。
「しゃぼん」が伝来して何と約320年後である。
※発行当時の原稿のまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。
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