『入浴福祉新聞 第26号』(平成元(1989)年3月27日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
入浴の歴史ものがたり②
立井 宗興
石器時代や縄文時代の人々も海や川で水浴びをし、温泉にも浸っていた。
こうした水浴・湯浴の目的は、疾病の治療、保健衛生上の観点、労働の息抜きなどもあったが、当時は宗教的な動機が大きかった。
古代の人々は「ケガレ」に脅えて暮らしていたともいえ、病気や急死、自然災害や田集落からの攻撃などはみな「ケガレ」のなせる業として、水や火、煙、香料等で己や家族、ムラ全体への害をはらおうとしたのである。
とくに、農地へ水を引き、土地を浄化し栄養豊富にして作物を育てる「水稲耕作」が普及する弥生時代になると、水への進行がいっそう強まった。この時代は、縄文の人々が巨石や大樹に神を感じていたのとは違って、水や気や火などに神を求め始めたからである。
沐浴による清潔感、爽快感は、水による清浄思想つまり、心の罪障まで浄めてくれる、と考えるまでに発達した。
「魏志倭人伝」には、「人々は喪の期間がすむと、一家をあげて水辺に赴き、川に浸って沐浴する」という「斎川浴」の習俗を伝えている。
こうした「水信仰」は、洋の東西に共通するもので、キリスト教のヨルダン河による洗礼、ヒンズー教やイスラム教徒の聖洗水浴など、たくさんの例がある。
そのなかでも日本は、最も水信仰が発達した国といわれ、湧水や名水を祀り、温泉神社を建ててきた。現代でも、御輿に水をかけ、宗教者は滝行をし、鎌倉の銭洗弁天で人々はお金を水で浄めて幸福を求めるのである。
※発行当時の原稿のまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。
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