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2021 05.14
お風呂好きの日本人らしい風習~『入浴福祉新聞 第120号』より~

 

『入浴福祉新聞 第120号』(平成24(2012)年4月1日発行)より

  過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。

  発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。

お風呂好きの日本人らしい風習

 

 

病院でお亡くなりになりしばらくお風呂に入っていない生前の入院生活を慮り、「お風呂に入れてあげたい」という家族の想いには共感できるものがあります。昨年の東日本大震災では、石巻をはじめ東北地方の沿岸部では、津波により多くの方々が犠牲になられました。あのような状況のなか、家族の皆様は、やはりお風呂に入れてきれいな身体にして故人を送りだしてあげたかったという気持ちが強かったと思います。とても残念な思いをされたのではないかと入浴福祉に携わる私たちも心が痛みます。

日本人にとって、お風呂は格別の位置づけにあります。この世に生を受けた直後に最初に行われる行為が産湯であり、また、この世と別れ、死を迎えた後に行われる行為に湯灌があることからもその産土様(自分が生まれた土地、出生した時の住所を管轄している氏神様のこと)の水を使い、新しく生まれた生命を祝し、再生された魂を寿ぐための儀式といわれています。分娩直後の産湯の水は、穢れを落とすものであり、使った湯は太陽の当たらないところ、産室の床下や方角の良いところを選んで捨て、捨てた場所が悪いと生児が夜泣きするという俗信があるほどです。

一方の死の儀礼である湯灌は、現世の汚れと生に対する煩悩を洗い清め、来世へと旅立つ身支度を整える儀式です。また、湯灌を執り行う家族にとっては、故人の死を受け入れ、心を整理するための手続きのひとつともいえます。なお、このときに用いるお湯も、前述の分娩直後の産湯と同様に、日の当たらない床下へ捨てることが習わしでした。このような、自宅で出産も死も家族の見守る中で行われた時代には、盥桶が普通に存在し、産湯も湯灌もこれを使って行われたのでした。

湯灌の風習が強く残っている徳島県の山深く三好市東祖谷釣井地区に移築保存されている小采家住宅は、国の重要文化財に指定されている建造物です。この住宅は、民家の特徴的な間取りや構造をもつ貴重な建造物で、特に注目するべきところは、家屋の奥にある納戸の床が竹製の床板になっており、座板をはずさなくても、ためらいなく床下へ湯を流せる構造になっている点です。居住する家屋が、生活様式と一体となっていた時代を彷彿とさせます。

近代、農村の住宅も現代風に変わり、自宅の床下に湯を流す、ということを考えた構造ではなため、昔と同様のことを行うわけにはいきませんが、古来より行われ親しまれた行為にはそれぞれ深い目的や意義があったに違いありません。

通常行う日常的な入浴にしても、ただ単に身体を洗うというだけでなく、ゆったりと入ってストレスを解消したり、親子のスキンシップやコミュニケーションの場となったり、あるいは温泉や銭湯では社会的なマナーを学ぶ場所であったりします。湯治場として病気やケガの治療の場として活用された歴史もあります。気ぜわしい現代社会の中では、ともすると風習は廃れがちです。ただ、「儀式」には、古くから伝えられ受け継がれた「日本の心の文化」の意味合いが強くあるのではないかと思います。

手間暇をかけることを面倒がらず、その精神性を今後も次世代へつないでいくことが必要とされているのではないかと考えます。

 

 

 

 

 

 

 

※発行当時の原稿のまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。

 

 

 

 

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