『入浴福祉新聞 第48号』(平成6(1994)年7月1日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
〔癒し〕の時代で伸び続ける800億円入浴剤市場
「お風呂と健康」認識させ温泉地が潤う波及効果も
花王「バブ」、ツムラ「日本の名湯シリーズ」に代表される家庭用入浴剤が、変わらず売れ行き好調といいます。
ショウブやユズなど[薬用植物]をお風呂に入れる日本的な習慣は古くからありますが、メーカーが入浴剤を工業製品にして、販売促進に力を注ぎ、売れ始めたのは1970年から。内風呂が急速に普及し始め、また、戦後の高度経済成長に陰りが見えはじめた時期でした。
たいがいの内風呂は、浴湯を再使用できる[沸かしなおし方式]のため、汚れを目立たなくする効用も入浴剤にあったようですが、それ以上に売れるようになった理由は、この時代から人々は、徹底した経済効率主義社会のなかで、ストレスを蓄積し、慢性的な疲労感を抱くようになったからでしょう。
入浴が、戦後の[清潔]を目的としたものから、[癒し]を重要視することにもなったためです。そのため、今日ますます盛んな温泉ブームの発生と、入浴剤が注目される時期は、まったく同じでした。
そして、1980年代に入ると、入浴剤は堂々の200億円市場を達成し、その後も急伸。いまでは800億円産業に君臨する生活用品産業の一翼を築くまでになりました。
メーカーも大手から零細企業まで約200社におよび、市販されている入浴剤の種類は700以上もあるといわれ、まさに百花繚乱という形容があてはまりそうです。
なかでも、1993年から「バブ」を発売した花王と、その3年後に「名湯シリーズ」で参入したツムラの2社が、35%ずつのシェアをもちダントツとか。
前者は、末梢の血行を良くするといわれる炭酸ガスが主成分。後者は、国内の名湯の成分を分析して人工的に[温泉の素]を作りだしたものといいます。こうした商品のおかげで、入浴の医学的効用がしだいに認識されるようになったことは、たいへん好ましいことでしょう。
面白いのは、「名湯シリーズ」を使用しているうちに、その温泉に実際に行きたくなった、という人が増加した点です。北海道の登別温泉はその代表例で、ツムラの人気アイテム『蝦夷の湯・登別カルルス』が、同地の宿泊客を急増させた、といわれているほどです。
「高度経済成長の夢よもう一度!」と、中高年オトコの妄想のようなものだったともいえる[バブル経済]が崩壊して世の中のカネ回りが悪くなり、国政も混迷。「日本自体がすでに老化を開始して、消滅も近い」との議論も登場してきました。
その真偽は後世になってみなければわかりませんが、いま日本は「癒し」の時代にあるのは確実。
病院へ行っても癒やされないのを知り尽くしている日本人の間で、当分「お風呂ブーム」が続くことは間違いなさそうです。
※発行当時の原稿のまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。
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