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2020 10.23
[死後の入浴ケア]悲嘆が癒され大満足の家族~『入浴福祉新聞 第107号』より~

 

『入浴福祉新聞 第107号』(平成21(2009)年1月1日発行)より

過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。

発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。

 

綺麗なカラダと何故か安らかな表情になり…

[死後の入浴ケア]悲嘆が癒され大満足の家族

新潟の病院と大学のスタッフが初の意識調査

 

最近、〔グリーフケア〕という分野がにわかに関心を集めています。

グリーフとは、悲嘆とか悲哀の意味ですが、身近な人を亡くして残された遺族らは、深い喪失感に支配され、この人が死んだのは自分のせいだ、といった罪悪感を持つ場合もあるため、看護や介護の領域として、悲しみに沈み、ともすれば日常生活にも支障をきたすような人たちを支えてゆこう、という日本では比較的新しい取り組みです。

緩和ケア病棟のある医療機関では、〔遺族会〕を開催しているところも増え、看取った医師や看護師も参加して食事をしながら、亡き人たちの思い出や自分たちの近況を語りあったりしているようです。

日本グリーフケア協会という民間団体も誕生し、宮城大学看護学部教授である宮林幸江会長を中心に、遺族の心奥と専門家の接し方ほか、具体的なグリーフケアの知識と方法を全国に普及してゆく活動がスタートしています。

そうした背景があり、〔グリーフケアとしての死後の入浴ケア〕が依然と注目されるようになりました。

本紙はこれまで、ターミナルケアとしての入浴を重視している緩和ケア病棟での試みをはじめ、〔緩和ケア病棟での死後の入浴ケア〕〔湯灌車を活用した死後の訪問入浴ケア〕などを紹介してきました。

医療機関で死亡した場合、従来は看護師による清拭がほとんどでしたが、家庭死が当たり前だった時代に行われていた湯灌を取り入れる医療機関も登場するようになり、医療関係者の遺体に対する意識も大きく変化しつつあるようです。

そんな時代の流れを象徴するかのように、新潟県の長岡西病院ビハーラ病棟の多賀裕美さんと新潟大学保健学科の柳原清子さんが、『死の臨床』第31巻第1号(2008年7月)に発表した「協働で行う死後の”入浴ケア”(湯灌)が家族のグリーフに及ぼす影響」と題したたいへん貴重な論文を発表されています。

多賀さんと柳原さんらは、A緩和ケア施設が1997年から行ってきた死後の入浴ケアに関わった家族へのアンケート調査を7年間も継続し、147名から得られた有効回答を集計分析したのですが、おそらく世界でも初めての研究なはずです。

その論文によりますと、死後の入浴ケアに参加した家族は有効回答者の82%にのぼり、時間の都合などで参加できなかったのは約18%でした。

そして、死後に入浴ケアを行うことに対しての感想は、「綺麗になるから嬉しい」が68%でトップで、疑問や不安を持つ家族はごく少数でした。

実際に、死後の入浴ケアに看護師と一緒に行った家族に参加理由を答えてもらったところ、「最期まで関わりたかったから」が37%、「家族として当然だから」が26%、そして「自分の手で綺麗にしたかったから」が16%もいました。

さらに、死後の入浴ケアを実施した感想を質問したところ、「綺麗になって良かった」70%、「生前と同じように接していただき満足」57%、「最後まで看病できて満足」49%、「ゆっくりお別れができて良かった」47%、「ケアをしながら故人を偲ぶことができた」42%、「入浴ケアしながら看護師から入院中の生活を聴くことができた」26%、などを指摘し、78%が、「このまま続けてほしい」、9%が「改善して続けてほしい」で、「どちらでもよい」は10%、「やめるべきだ」は1%といった具合で、90%近い家族が〔死後の入浴ケア〕に満足するプラス感情を持っていて継続を支持していたそうです。

マイナス感情としては、変わり果てた姿、それも裸と接するのは辛い…本人は羞恥心が強かったので、嫌だったかも知れない…遺体を洗うのは気持ちの良いものではなかった…石鹸が残るなど洗い方が良くなかった…などなどでした。

こうした家族には、死後の入浴ケアで遺体と向き合うことは恐怖と苦痛の体験となり、グリーフケアとしては逆効果になるかも知れませんが、ほとんどの家族にとって、湯灌の日本的風習が忘れ去られてなく、肯定的で満足感も強いことは注目したいところです。

アンケートの自由記述欄には、死後の入浴ケアのス素晴らしさを家族自身が吐露したさまざまな言葉が見いだされました。

元気な時のように、入浴後に化粧もしていただき嬉しかった…長いこと苦しんだ顔が入浴で安らかになった…苦痛がなくなったのか、穏やかで気持ち良さそうな顔だった…お化粧もしてくれてとても綺麗になった…

死者の綺麗な身体と安らかな顔をいまでも自慢している…まるで生きているように綺麗だった…自分の手で綺麗にできて良かった…家族と一緒に綺麗にしてくれて感謝している…孫も人間の最期に接する貴重な体験ができた…入浴好きな本人も、これ以上の幸せはないだろうと思った…

あの嬉しさはいまでも忘れられない…いまでも法要の時などに、死後の入浴の話が出てきて、本当に良いことだと思う…入浴で心が癒された…本人の闘病での家族の苦しみも、入浴で洗い流してくれた…自分も身を清めてもらって天国に行きたい…

生きている時と同じように接してくれた看護師の温かな心に感謝している…入浴のおかげで家族は思い残すこともなく満足している…清拭より良い方法と思う…本人と話をしながら綺麗にして差し上げた…

湯船の中での安らかな顔が忘れられない…現世の汚れを落としてもらえて良かった…死者に最高のプレゼントだと思う…これで穏やかに成仏できただろう…新しい出発にふさわしい儀式でもある…綺麗な身体であの世の旅をしていると思う…

などなどが寄せられたそうです。

死後の入浴ケア=湯灌は、古くは儀式的に行われてきましたが、こうした感想を読みますと、現在の湯灌は、生前の入浴ケアと同様に、語りかけながら行っているのが大きな特徴とされ、その意味でも〔生の延長としてのケア〕〔新しい次の生を生きるための出発点〕とのとらえ方をしているようにも思えます。

いずれにしても、高齢時代は高齢死の時代ですから、グリーフケアとしての死後の入浴ケアの重要性は高まってゆくことが予想されます。

 

 

※発行当時の原稿のまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。

 

 

 

 

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