『入浴福祉新聞 第55号』(平成8(1996)年3月15日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
韓国式入浴法はシャワーと西洋式浴槽 毎日ゴシゴシ擦っているわけではありません
日本でブームの「アカスリ」は 沐浴湯やサウナで週に1回ほど
われわれ日本人は、「○○健康法」といった類をたいへん好むようです。
戦後だけでも、ブームになった「健康法」を列挙してゆくと、かなりの数になってしまいます。
その割には、病人は減っていませんが、寿命が延びたのは客観的な事実で、庶民が言い伝え、好んできた「健康法」には、それなりの効果があるのでしょう。
さて最近では、〔入浴健康法〕を見直す動きと相まって、韓国が発祥といわれる〔アカスリ健康法〕が注目されています。アカスリに使用する天然パルプを原料としたタオルがヒット商品となり、年間3~4000万枚も韓国から日本に輸入されている、といわれるほどです。
私たちのカラダ全体を保護している「角質」を、入浴で取り過ぎるのはヨクナイ、というのはいまやジョウシキ。
ですから、皮膚科の医師の多くは、少し前に流行した「ナイロンタオル」による摩擦黒皮症の例を出して、「韓国式アカスリ」も避けるべきだ、と警告しています。
その一方で、「皮膚に付着した古い角質や毛穴の汚れを取り除くだけなら、皮膚がむしろ活性化するので勧めたい」「韓国式アカスリに使用するタオルは、ナイロンとはまったく素材が違い肌を痛めない」と言う人もいます。
東京などには「アカスリサロン」も出現していて、愛好者は異口同音に「とても爽快。肌がツルツルと輝くようになった」と絶賛しているようです。
しかし、いずれにしましても、「アカスリ」の本家本元の韓国でも、毎日しているわけではありません。
せいぜい一週間に1度だそうです。アカスリの研究家も、「自己流は好ましくない」としていますので、アカスリについての本を読まれた方が無難でしょう。
ところで、この「韓国式アカスリ」はいつ頃から韓国で始まったのでしょうか。残念ながらよくわかっていません。
韓国・朝鮮半島の古来からの入浴方法は、川の水あるいは井戸水を桶やタライに汲んで沐浴する習慣と、もうひとつが「汗蒸」(ハンジュウ)でした。
石を積み上げ、泥土で固めた窯状態の風呂の中で枯れた松葉などを燃やし、戸を閉じておきます。窯全体が熱くなったら灰を取り出して、濡れたムシロを敷いて中に入り、汗をタップリかくのです。
この「汗蒸」もやはり当初は、病気治療が目的だった、と伝えられます。
また、窯を熱する方法とは別に、蒸気をムンムンさせた室内に入る「蒸気浴」もあったようです。
いずれも仏教寺院で主に使用され、それが民衆用になったようですが、このあたりの事情が日本とそっくりなのは、同じ東北アジアだからでしょうか。
しかし、こうした伝統的な韓国の入浴方法は、日本軍の侵略による日韓併合で廃れてしまいました。
日本式の銭湯が、釜山などに持ち込まれ、それが各都市部に普及し、第二次大戦後に定着することになったのです。
この日本式銭湯のことを、韓国では大衆「沐浴湯」(もぎよくたん)といい、20年ほど前までは月に1度、せいぜい週に1度行く人がほとんどでした。韓国は湿度が高くないため、日本人のように頻度は少なくて済むからです。
現在では、韓国でも内風呂がかなり普及しました。
とはいっても、アメリカの影響なのでしょう。韓国人はふだんはシャワー浴が中心で、浴槽は浅い西洋式です。
それでも、街なかにある「沐浴湯」は健在で、週に一度ぐらい、アカを落としに行く人が少なくありません。
「沐浴湯」には、アカスリのプロが常駐していて、特別にきれいにしたいときや疲れている時などに頼むのです。
アカスリ料金は120円ぐらいとか。
たいへん興味深いことに、その「沐浴湯」でのアカスリサービスは、高齢者や身体障害者への入浴福祉がそもその始まり、という説があるのです。
また韓国には、「沐浴湯」とは別に、サウナ浴場もたくさんあります。それも日本人が持ち込んだ様式です。
1970年代に韓国では、サウナを併設する外国人用のホテルが続々と誕生しました。
この頃、浴場の規制緩和策もとられたため、街の大衆サウナが次々とオープンしていきました。
そもそも韓国の伝統的な入浴方法は「汗蒸」でしたから、サウナ浴場の普及はアッという間でした。
当然、サービス競争も激化し、アカスリを導入するサウナ浴場も増加していった、と推定されています。
シャワーに西洋式浴槽での入浴、体臭沐浴場やサウナ浴、といった具合に韓国人はいろいろな入浴を楽しんでいるわけですが、やはり毎日ゴシゴシとカラダを擦り洗う習慣などはありません。
くれぐれも「韓国式アカスリ」を誤解しないようにしてください。
※発行当時の原稿のまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。
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