『入浴福祉新聞 第108号』(平成21(2009)年4月1日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
患者を清潔にできて温熱効果も得られる〔手浴〕
医療機関の看護師は実施の必要性を強く認識
だが完成度の高い用具が開発されていない現実
医療施設や高齢者施設での集団感染が発生すると、かならず〔手洗い〕が強調されます。しかし、とりわけ医療施設では、職員は手洗いを徹底するようになりましたが、安静状態にある入院患者に対しては、手っとり早いオシボリによる清拭で済ましてしまう現況が続いています。
本来なら、患者の手が清潔になり、温熱効果も得られる〔手浴〕を、医療機関でも頻繁に行うべきなのでしょうが、〔標準看護〕ではないため、ほとんど行われていません。
では、医療機関の看護師は、〔手浴〕に対してどう考えているのでしょうか?現状のままで良し、と思っているのでしょうか?
北海道大学病院の宮下輝美さんと、北海道大学大学院の矢野理香さんが、「臨床における手浴の実態調査」を、『日本看護技術学会誌』第7巻第2号(2008年)で発表していて、たいへん参考になりました。
宮下さんと矢野さんは、A総合病院に勤務する経験2年以上の看護師に、〔安静臥床患者に対する手の清潔ケアの実施状況と意識〕に関するアンケート協力を依頼。224名から寄せられた有効回答を集計分析したのです。
それによりますと、手の清潔ケアの主な方法は、〔濡れたタオルで拭く〕が73%と圧倒的で、〔ベッド上で手浴を行う〕と答えた看護師はわずか24%でした。
〔手浴〕の対象者は、入浴ができない患者…汚染が著しい患者…洗面所まで行けない患者…などですが、〔手浴〕の目的を看護師はどう考えているのでしょう。
100%近くの看護師が、手の清潔…手の臭い除去…皮膚状態の良好化…爽快感を得る…手の血流改善…などを指摘。リラックス効果…手を温かくする…なども目的である、とした看護師が80%強もいました。
さらに、患者との信頼関係の形成…手の機能訓練の機会…痛みの緩和…ネガティブな気分の改善…日常生活リズムの取り戻し…といった項目でも、半数の看護師が手浴の効用として認知していたそうです。
このほか、〔手浴〕を実施する体位は、ファーラー位が48%、仰臥位が26%、坐位が18%、所要時間は、10分が44%、15分が32%、20分が10%、湯温は、38℃~41℃未満が69%、38℃未満が25%、マッサージも実施するは57%、といった具合でした。
では、〔手浴の効果〕はどう評価しているでしょう。「とても効果があった」「やや効果があった」を合わせた〔効果評価〕が高い項目は、「手が清潔になった」「手の臭いが取れた」「手が温かくなった」「皮膚状態を良好に保てた」などで90%前後の看護師が認めていました。
さらに、「爽快感が得られた」は70%強、「リラックスできた」と「手の血流が良くなった」は60%の看護師が〔手浴の効果〕として挙げました。
つまり、医療機関の看護師のほとんどが、手浴の目的も効果もしっかりと認識しているわけです。しかし、「あまり実施していない」と答えた看護師が46%もいた点は看過できないでしょう。ちなみに、「手浴をよく実施している」と答えた看護師は経験年数が長い傾向があることも判りました。
医療機関の看護師は、〔入浴の研究〕こそあまりしないのですが、〔手浴〕〔足浴〕については、その研究成果が看護系学会でもよく発表され、手足の清潔化だけでなく、部分温熱刺激による全身への波及効果…血流の改善…皮膚温度の上昇…快適感の獲得…リラックス効果…鎮痛効果…硬直した筋骨格系の緊張緩和効果…手指の運動障害改善…などがよく報告されています。
しかし、手浴や足浴は〔完成度の高い用具〕がいまだに開発されていない点が大きなネックになっていて、そのために実施頻度が低く、医療機関でも依然としてオシボリ中心になっているのが現実です。1日も早く、適切な〔手浴・足浴の用具〕の誕生が待たれています。
※発行当時の原稿のまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。
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