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2020 07.17
医療の世界はなぜ湯浴を忌み嫌ってきたのか?~『入浴福祉新聞 第94号』より~

 

『入浴福祉新聞 第94号』(平成17(2005)年12月1日発行)より

過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。

発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。

医療の世界はなぜ湯浴を忌み嫌ってきたのか?

ケガレの病気観とハレの入浴が乖離した不思議

 

「入院すると入浴ができなくて閉口する」といわれた以前に比べて、医療機関の入浴に対する考え方は、かなり柔軟になり改善されてはきました。

とはいえ、清潔保持の枠内での入浴で、体調回復や障害のリハビリ効果の促進、といった範疇にはまだ組み入れられていないのが現状です。

脳梗塞や心筋梗塞を起こした患者に対して、リハビリ目的の早期入浴に着目する鋭い看護師も出てきましたが、たいていは担当医を粘り強く説き伏せなければ実現しない、という高いハードルがあるようです。

病気になり、快癒し始めたとの自覚症状に至ると、私たちは「先生、お風呂はもう大丈夫ですよネ」などと訊きます。それほど〔病気と入浴〕は乖離してきました。

医学部はいまでも入浴生理学などは教えませんし、看護教育にも入浴学はなく、清拭方法があるだけです。どうして、医療の世界から入浴は遠ざけられてきたのでしょう。

「入浴が、患者の身体に与える影響」といった研究がほとんどされてこなかったためでもありますが、それなら何故、研究されてこなかったのか不思議です。日本の医学部はヨーロッパ医学を教える…ヨーロッパ人は入浴をそれほど重んじないからだ…といった理屈はあたりません。ドイツの医学教育には、温泉の利用を中心とする湯浴の医学がカリキュラムに含まれているそうです。

世界一お風呂が好きな日本人なのに、医学教育に入浴学が導入されてこなかったのは、どうも〔日本人の病気観〕が根底にありそうです。

民俗学ではよく〔ハレ〕と〔ケ〕という言葉が使われます。〔ハレ〕は滅多にない晴れがましい出来事で、〔ケ〕は日常そのものです。これに、〔ケガレ〕を加えるのが現代民俗学の常識で、〔ケガレ〕は忌まわしいモノゴトを意味します。〔ハレ〕と〔ケ〕と〔ケガレ〕の3つの世界を行ったり来たりしながら生きている、というのが日本人の基本的な生活心情とされます。

そうしたなかで、日本人は、病気に対しては〔ケガレ意識〕が強烈な為か、日常的な〔ケの世界〕と隔絶させようとするのです。

ハンセン病や精神障害の患者に対して医療は、世間と絶縁状態にし、永久的に隔離収容すると発想をしてきました。

〔病というケガレ〕が、日常的な〔ケの世界〕に悪影響を与えないように、と考えてきたためです。エイズ患者への差別と偏見も、〔ケガレ意識〕が起因したといえます。

かつての日本人は、現在のように毎日お風呂を楽しめる余裕はありませんでした。入浴日は、まさに〔ハレの日〕でした。現在でも、入浴タイムは〔ハレの時間〕です。

何事もなく意外と退屈だった〔ケの一日〕や、運悪く体験してしまった不愉快な〔ケガレ〕を、入浴して消去しようとします。〔湯浴で禊ぎ〕をして、心身をリセットするのです。

日本人の冒険家や遭難者が、無事に帰還した時かならずといっていいほど語られるのが、「とにかくゆっくりとお風呂に入りたい」「温泉でノンビリしたい」です。これほど日本人的な心情を表現する言葉はなかなか見当たりません。〔危険なケガレの世界〕から脱出できて、「ハレの気持ち」になり、〔ケの世界〕に戻れる自分を、湯浴で確認し、祝福もするわけです。

ところが医療は、〔ケガレの世界〕にいる患者に対して、〔ハレの時間〕〔ハレの日〕さらに〔ハレの空間〕の提供など考えなかったため、入浴を無視してきました。

〔ケガレ〕を湯浴で少しでも解消しようとするどころか、建物も内部の造作も殺風景が当たり前、とされてきました。

では、患者に入浴をしていただき、〔ケガレ〕を少しでも癒す、といった〔習俗的な入浴〕すら、医療機関に根付かなかったのは、いったいどうしてでしょう。やはり大きな謎として残ります。

古来からの湯治は、〔病気になってケガレている〕というマイナス状態の心身を、〔温泉場というハレ〕のプラス環境に包み込んで、マイナスを除去し、プラスに転じるといった思想が込められているのにです。こうした湯治は東洋医学の分野だから、近代の医療機関には馴染まなかったのでしょうか。

ともかく、入浴の医学的な効用に、現代の医療関係者はもっと着目してほしい気がします。

弱点を、医療機関の患者ではなく福祉の世界に向けますと、要介護者にとって、入浴日は滅多にない〔ハレの日〕です。要介護者も希望すれば毎日のように入浴できるようになれば、入浴タイムは、〔ハレの時間〕となるのですが、まだまだその実現は難しいでしょう。

しかし、〔入浴日はハレの日〕という週間スケジュール的なサービスから、少しでも回数を多くして〔入浴はハレの時間〕に近づける努力をしてゆきたいものです。

 

 

※発行当時の原稿のまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。

 

 

 

 

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