『入浴福祉新聞 第84号』(平成15(2003)年7月1日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
内憂外患の老舗温泉地
1500mも掘れば[温かい水]は出るので・・・苦戦の遊園地も温泉!マンションも温泉!
バブル経済の崩壊から一転し、団体客で大賑わいだった全国の有名温泉地の経営苦境が続いているようです。
心身の健康面から温泉癒し効果が注目されて、静かにゆったり気分を味わいたい、という個人客が増えてきたとはいえ、全体としては客足はパッとしません。
一部の温泉旅館やホテルの経営者は、高齢時代のニーズに合わせ、デイサービスなどにも利用できるよう、段差をなくしたり手すりを付けたりするリニューアルを行い、健康福祉施設への脱皮を始めているものの、それが大きな流れになるのはまだ先のことでしょう。
そうしたなかで最近は、「東京ディズニーランドだけ客が来ていて、他は閉園するのも時間の問題」といわれる遊園地企業が温泉に着目。続々と〔温泉ランド〕づくりを始めているのです。
東京都日野市の『多摩テック』が「クアガーデン」・・・栃木県小山市の『小山ゆうえんち』が「小山温泉思川」・・・三重県磯部町の『志摩スペイン村』が「ひまわりの湯」・・・三重県鈴鹿市の『鈴鹿サーキット』が「クア・ガーデン」・・・といった具合に、これまで行列ができるほどの人気だった〔不安と恐怖を与えてくれる過激な乗り物志向〕を捨てて、ぢ亜浴場や露天風呂、サウナやジャグジーなどを揃えた入浴総合施設に重きを置く経営戦略に転換しているのです。
さまざまな浴槽や入浴設備がある〔スーパーセントー〕は名古屋が発祥の地。〔スーパーセントー〕をさらに大型化した〔温泉テーマパーク〕は大阪で誕生したのが始まりとされますが、今年の3月にはついに、東京の新名所お台場に『大江戸温泉物語』なる巨大温泉施設が登場したほど。これに続き、東京文京区の『後楽園ゆうえんち』も、この5月には温泉をメインにリニューアルオープン。ドームやホテルを含めて『東京ドームシティ』に改称し、浴場ゾーンを「ラクーア」と命名して、遊園地部分は大幅に縮小して無料にしました。
さらに、10年前には年間入場者400万人を誇った東京都練馬区の『としまえん』も、ここ数年は4分の1に落ち込んだため、温泉施設への大改造を決意。今年の夏には、「庭の湯」をオープンさせる予定とのことで、〔遊び業界〕はお風呂一本鎗になってきた感じになり、お客の確保に必死になっている旧来の温泉地は、ますます厳しくなりそうな雲行きです。
さらに、マンション業界も負けずに、〔全室天然温泉付き〕をセールスポイントにするなど、温泉ブームも究極にきたような感じになってきました。
温泉付きマンションの建設は、温泉のメッカ箱根をもつ神奈川県の西部地域などでは、かなり目立ってきたとのことです。
遊園地の経営もマンションの建設も、「温泉!温泉!」というわけですが、憂慮すべき問題がないわけではありません。
それは、〔温泉パーク〕も〔温泉マンション〕も、ほとんどが〔大深度温泉〕という点です。
温泉専門家の話では、首都圏だけでなく、極論すれば日本全国どこでも1500メートルぐらい掘れば[温かな地下水]は出てくるといいます。地中温度は100mで2~3℃高くなりますから当然の話でもあります。
温泉掘削は、〔1メートル10万円〕が相場ですから、1憶5000蔓延を投資して1500mも掘れば40℃前後のお湯が得られるわけですし、最近はポンプの性能も格段に向上しましたから、「温泉が出た」など稀有な話ではありません。
日本人は〔温泉〕と名前がつけば、まるで〔御神水〕にあやかれるような錯覚をもってくれます。
そのため、これからも掘削と汲み上げ技術の向上のなかで、〔温泉ブーム〕は続くでしょう。
しかし、老舗の源泉に影響はないのか?地下水脈を枯渇させたり、もろもろの影響が出たりしないのか?といった疑問はほとんど解明されていません。
温泉研究者の憂慮の声が聞かれてくるゆえんです。
※発行当時の原稿のまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。
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