『入浴福祉新聞 第84号』(平成15(2003)年7月1日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
一筋縄ではいかない 温泉施設のレジオネラ菌退治
国も本腰を入れて健康資源の温泉を守るべき時代
いま全国の温泉旅館やホテルには、「オタクの温泉は大丈夫ですか?」「循環式ではないでしょうね」「本当に天然温泉ですか!」との問い合わせが目立つようになっているという。
それだけ温泉施設のレジオネラ感染症の散発は、温泉ファンに取り返しのつかない不安を与えてしまった。
2000年度の温泉利用者総数は約1憶3700万人ではあるが、一昨年度も昨年度もかなり減少したのは確実といわれ、日本の温泉業界は焦燥感を深めている。世界に誇る日本の健康資源である温泉は、信頼を回復できるのだろうか?
バブル経済が崩壊して、〔癒しの時代〕が到来したとされるなかで、〔マガイモノ温泉〕を警告する書籍が相次いできた。今年も、温泉療法医で病院長の井上毅一氏が『こんな温泉が体の疲れを癒してくれる』(青春出版社/870円)を出し、温泉を水道水で薄めたり、塩素殺菌して再利用する温泉が増加している旨を強調。
温泉療法医の立場から、そうした温泉は温泉とはいえない・・・天然温泉だけを浴槽に満たし、「かけ流し」をしているホンモノの温泉を利用してほしい・・・としながら、温泉健康法と推薦温泉を教えてくれている。
井上毅一氏も、循環式温泉施設とレジオネラ感染の危険性に言及しているが、この今日的な問題を詳解した本が同時に出版された。「安全な温泉あぶない温泉」(草思社/1300円)である。
著者は、温泉設備のコンサルタントと消毒業務を行っている中澤克之氏で、これまで全国100カ所以上の温泉の衛生調査や消毒などに取り組んできたという。
中澤氏の経験では、実に7割の温泉施設から国の基準を超えるレジオネラ菌が検出されたそうだ。
しかし、だからといって循環式を悪者にするのは筋違いで、しっかりと衛生管理の研究をすれば、レジオネラ菌は退治できるはずだし、日本の最高の恵である温泉とその環境を、白眼視するようになってはいけない、と昨今の〔温泉バッシング〕を憂慮している。
本書には、中沢氏が温泉消毒に奮戦する模様が詳しく書かれているが、〔レジオネラ菌退治のプロ〕でも、こんな厄介な病原生物はない、と断言するのである。そして、温泉はそれぞれ成分が異なり塩素など薬剤の使用方法がかなり難しく、個々の温泉旅館やホテルの経営者が万全なレジオネラ対策を講じられるほど甘くはなく、国が本腰を入れるべきだ、ともいう。
それにしても、どこにでも常在しているレジオネラ菌が、なぜ大繁殖して感染症を起こすようになってしまったのか?
「殺菌力をもっている樹木の減少・・・大気や水の汚染・・・など環境の悪化が招いた災いともいえる」との中澤氏の示唆を傾聴すべきと同時に、随分いい加減といわれる『温泉法』をこのへんで根本から見直し、源泉の含有率ほか、衛生管理状態も含めた情報公開をすべき時代に入ったような気がする。
※発行当時の原稿のまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。
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