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2019 04.26
風化させまい「阪神・淡路大震災」という「高齢社会型大災害」~『入浴福祉新聞 第55号』より~
 従事者向け

 

『入浴福祉新聞 第55号』(平成8(1996)年3月15日発行)より

過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。

発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。

 

 

風化させまい「阪神・淡路大震災」という「高齢社会型大災害」

明日はわが市町村との思いで被災者福祉ができる街づくりを

 

 

戦後最大の被害と犠牲者を出した「阪神・淡路大震災」から1年がたち、新聞・雑誌・テレビで、いろいろな角度から特集が組まれ、それなりに考えさせられた。

しかし、日本のマスコミは、コトが起きると各社こぞって集中豪雨的に報道するため、その風化力も凄まじい。恐らくあと1年もすると、マスコミの関心はもっと希薄になり、国民もそれにそって過去の地方都市災害と片付け、無関心になってゆくだろう。

事実、大震災後に発生した「オウム事件」の報道量の方が圧倒的に多いのだそうだ。

 

スキャンダルのようなコトなら、一過性でいいのかも知れない。だが、今回の震災は、史上初めての「高齢社会型大震災」なのだ。しかも、国家による手厚い〔被災者福祉〕はなされず、21世紀の超高齢化時代に向けての準備が、遅々として進んでいないことをも証明してしまった。

「阪神・淡路大震災は、高齢者が地獄に投げ込まれる21世紀の日本の縮図そのものだ」とまでいう識者もいるのである。

当初は多くの国民が、大都市神戸を中心とした被害だったため、「都市型巨大災害」というとらえ方をした。

たしかに、都市の超過密ぶりが被害を拡大した側面があり、過密の〔街づくり〕を許容し、促してきた市民も行政もウカツだった。

むろんこれは、神戸に限らない。全国の主要都市はどこも、緑地ゾーンやゆったりとした生活道路など、公共スペースがない超過密状態であり、また、被害を少なくしたり、救援活動が円滑にできるコミュニティもすでに失われている。

 

それはそれで大問題なのだが、今回の大震災の特徴は、犠牲者の5割以上が60歳以上という点だろう。

しかも、震災で重病を追い、病気になって死んでいった、いわゆる二次災害三次災害の犠牲者になると、9割が高齢者だというのである。

どこの避難所も、生活環境は劣悪をきわめた。高齢者にはまず、寒さがこたえる。冷たい床で震えつつ、トイレへ行くのも難儀なため、水を我慢して脱水症状を起こす…固くなった冷たい食べ物で下痢になる…。

 

悲惨な避難高齢者の姿に接しながら心配したボランティアが、ストーブと消火器を持ち込んで、「寝ずで火番をするから暖かくしてやりたい」と言っても、許可がされなかったケースが多かったという。

 

そんな場所では、抵抗力のない高齢者はひとたまりもない。ストレスは蓄積し、肺炎…心不全…腎不全…心筋梗塞…慢性疾患の悪化…などなどで病院に担ぎ込まれる。むろんそこも、パニック状態になっているため、充分な処置ができず、バタバタと死んでいった。

 

震災によって、もともと脆弱だった医療と福祉の現実が、いっきょにあぶり出されたのである。

日本は、医療と福祉のスタッフが圧倒的に不足していることも教えてくれた。

 

いまでも8万人生活している仮設住宅の問題も指摘されている。

「住み慣れた地域と住まいで…」という、高齢者福祉を語る際に必ず飛びだす言葉が、白々しく絵空事に聞こえるほど劣悪という。

そして、そこは高齢者ばかりが目立つ〔街〕である。仮設住宅で暮らすことになった人の3分の1以上が65歳以上で、20%が独り暮らし。65歳以上が70%もいる仮設住宅もあるという。

 

通路と仮設住宅の入口との段差が高いため、障害があったり、虚弱な高齢者には危険なケースも少なくない。何と段差が、80センチの仮設住宅もあるらしい。

おまけに、室内は、夏は蒸し暑くて、冬は寒くて、眠れない。浴室も使いにくい。浴室との仕切りの段差も高いのである。〔とにかく間に合わせ〕という発想があるからだ。よって、いわゆる住まいでの事故も少なくない。

 

ココロの問題も深刻だ。被災の体験と、馴れない住まいと、殺伐とした仮設住宅街の風景と、知らない人ばかり、といった環境の激変のなかで、栄養状態も悪く、心身の変調を訴える高齢者が多いのである。そして、閉じこもりがちとなり、誰にも看取られずに死んでゆく孤独死はすでに50人以上になった、と伝えられている。

仮設住宅のほとんどが、不便な郊外に設置されたため、通院もままならないし、訪問医療やケアも十分に行われない。

 

そうした状況のなかで悪戦苦闘を続けているある福祉関係者は、「これはまさに棄民政策だ」と語るほど、被災後に一人ひとりに対する国家的援助がされてこなかった。

個人への救援は、ボランティアと全国からの義援金だけ、といった事実を外国人が聞いて仰天した、というのも当然だろう。

「死んだ方がましだった」と、つぶやく高齢被災者が少なくないという。震災でなにもかも失い、生きる希望をなくし、いまだに地震の恐怖を忘れられない高齢者の多くが、これから続々と痴ほう症になってゆく、と予測する専門家もいる。すでに、震災後に介護が必要となった高齢者は、3,000人を超えたそうだ。

 

神戸市や兵庫県だけでなく、ほとんどの自治体でも、万が一のコトが起きた場合、「災害弱者」をどう保護し援助してゆくか、といった想定がされていない。

その国のその町の福祉レベルは、こうした天災に襲われた時ストレートにあらわてしまう。今回の〔高齢社会型大災害〕は、日本が福祉を後手に回してきた結果なのだ。

 

「高齢者や障害者が暮らしやすい街は、誰もが暮らしやすい街」とよくいわれる。「福祉の視点で築かれた街は、震災にも強い街」との発想で、〔街〕のあり方を真剣に見直す時代にきている。

 

(露)

 

 

※発行当時の原稿をそのまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。

 

 

 

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