『入浴福祉新聞 第90号』(平成16(2004)年11月15日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
訪問入浴介護の従事者も高齢者虐待防止に協力を
日大文理学部教授で日本入浴福祉研究会理事の田中荘司氏らが、10年以上も前から制度的な対策の必要性を説いてきた〔高齢者虐待防止〕に、国も取り組むことになってきました。
介護を必要としている高齢者に対して、食事を与えないなどお世話を放棄する…早く死ね!などの暴言を吐く…といった虐待が、最近では多くの福祉関係者の間でも問題視されるようになりました。
ところが、高齢者を虐待しても、児童福祉法や配偶者間暴力防止法に盛り込まれているような抑止のための仕組みがいまだにありません。ホームヘルパーや訪問看護師が、高齢者虐待を察知しても対応がしにくく、結果的に放置されてきました。
そんな現状を憂慮し、〔高齢者の人権を守る〕という観点から福祉を考えてゆく機運も高まるなかで、田中教授は有志の研究者をはじめ、看護や介護の専門家らの協力を得て、1992年に「高齢者処遇研究会」を立ち上げ、その後「高齢者虐待防止センター」として、実態調査や電話相談などをボランティアで取り組んできました。
また、神奈川県横須賀市や石川県金沢市、東京都世田谷区などごく一部の自治体でも、看過できないとして、専門職が連携しながら一つ一つの事例に対応してゆく「相談センター」や「連絡会」を組織する動きに発展しています。
こうした熱心な研究者や自治体の取り組みが実を結んで、昨年8月には念願の「日本高齢者虐待防止学会」が設立され、初代会長に選出された田中荘司教授は、「まだまだ高齢者虐待に対しての関心は低い。保健・医療・福祉の専門家は重大な人権問題との認識をもってほしい」と呼びかけました。
今年の7月には第1回目の「学会」が開催され、この問題に早くから取り組んできた自治体担当者から、現況が報告されるなどで、参加者には随分と刺激になったようです。
この間の4月、厚生労働省は、前年秋に行った『家庭内における高齢者の虐待に関する全国調査』の結果を発表。
虐待の被害者は、平均82歳で、要介護度3以上が約51%…加害者の3割は息子…加害者と被害者の接触時間が長いほど虐待が起きやすい…心理的虐待が約64%、介護放棄が52%、身体的虐待が約50%・・・
被害を受けている1割に生命の危機…加害者の約54%に虐待の自覚なし…ケアマネジャーの約9割が、虐待を知っても、介入拒否や関わり方の難しさなどから、対応困難と回答…
といった驚くべき実態が明らかになりました。
全国入浴福祉研修会の講師として何度も参画をいただいている田中教授は、「とりわけ訪問入浴介護の従事者は、要介護者の身体状況をつぶさに観察できる利点があり、奇妙な傷やアザなどを発見しやすい立場にいるので、高齢者虐待にも関心をもって接してください」と協力をお願いしています。
高齢者虐待の防止は、一刻も早く具体的な対策に進むべき課題になっていますので、ぜひ多くの訪問入浴介護従事者も関心を深めてください。
※発行当時の原稿をそのまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。