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2021 03.12
温泉を地域保健に活用している市町村~『入浴福祉新聞 第73号』より~
 従事者向け

 

『入浴福祉新聞 第73号』(平成12(2000)年10月1日発行)より

過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。

発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。

 

 

温泉を地域保健に活用している市町村は

老人医療費や受診率も低い傾向ハッキリ

 

増大する一方の老人医療費の抑制を、[高齢者の生活]の観点からみなおそう、と国民健康保険中央会が[温泉]に着目。このほど、『温泉を活用した保健事業のあり方に関する報告書』を発表しました。

同中央会ではこれまでも、[高齢者の就業と健康][高齢者の生活習慣と健康]をテーマに大規模な調査を行っていますが、やはり、仕事をもっている高齢者は医療費も少なくて済む…規則正しい生活をして、社会活動にも積極的な高齢者ほど健康…といった結果を得ています。

今回の[温泉と健康]に関する調査は、[温泉という”場”の効用はあるのか?][温泉浴は医療費に影響はあるのか?]などを中心課題にすえ、研究会(委員長=医事評論家・水野肇氏)を設置して調査と分析をしたものです。

[温泉大国]の日本は、全国3232市町村の実に約7割、2184市町村に温泉があります。研究会では、この温泉のある市町村にアンケートを配布。約5割の市町村から回答が得られました。

しかし、[温泉のある市町村がほとんど]というなかで、どんなかたちであれ[温泉を地域住民の保健事業に活用している市町村]は約25%と意外に少なく、[高齢者の健康づくりに役立つはずの温泉という地域資源の活用]は、全国レベルでみると、まだまだの観がします。

では、温泉を保健事業に組み入れている市町村では、どのような事業をしているのでしょう。

高齢者の温泉無料入浴券の配布…温泉までの無料送迎バスの運行…といった初歩的な事業をはじめ、さまざまな取り組みが行われています。

温泉で水中ストレッチ運動などを含めた健康づくり講座(北海道当麻町)…温泉を会場に医師や看護師の講演会や健康相談コーナーも設ける健康と福祉の祭典の開催(福島県北会津村)…温泉の効用などを学ぶ健康講座を温泉施設で開いている(福島県喜多方市)…温泉のある総合福祉センターで機能回復訓練を実施(山形県最上町)…温泉にデイサービス施設を併設(香川県財田町)…温泉医療センターで医師や理学療法士の指導のもとにリハビリを実施している(群馬県六合村)…介護保険で自立や要支援と判定された独り暮らし高齢者を対象とするミニデイサービスを温泉で計画中(長野県茅野市)…温泉医学を勉強する科目もある鹿教湯温泉健康学校をクアハウスかけゆで実施している(長野県丸子町)…温泉施設に、ふれあい農園などを併設(福岡県八女市)…敬老の日や健康祭など、折りにふれて温泉無料体験をしてもらい温泉を勧めている(大分県湯布院町)…高齢者宅に温泉を宅配する福祉(宮崎県山田町)…

などなど、温泉を住民交流の場として利用しながら、健康啓発のプログラムを盛り込んだり、温泉を[地域保健の資源]として明確に位置づけて、積極的に活用している自治体も少なくないこともわかりました。

温泉を保健事業として活用している市町村では、「高齢者の外出促進効果が高い」「リラックス気分が味わえる」「気分転換できる」「友人や知人と対話をしたり、見知らぬ人とも話をする機会が得られる」などの理由を掲げながら、自己評価はかなり高いようです。

また、実際に地元の温泉を利用している住民へのアンケートでは、実に9割以上が「温泉を利用して体調が良くなった」と答えていました。

さらに、水中運動やリハビリ施設等に温泉を積極活用している先進的な市町村では、高齢者の寝たきり予防なども期待していて、高齢者に温泉を勧めたことでリウマチが緩和された…風邪をひきにくくなった…腰痛や肩痛などの症状が軽減した…1ヵ月で脳卒中患者のリハビリ効果が得られた…といった報告も寄せられました。

[温泉利用の促進と医療費]との関係はどうでしょうか。

残念ながら、今回の調査では、温泉を保健事業に組み入れている市町村でも、[温泉が医療費を抑えられる]といった認識をさほど強くもっていないことが判明しました。

[人口1万人以上3万人未満の温泉活用市町村]の25%が、「病院や医者への受診が減少する」と答えていますが、[人口3万人以上10万人以下の温泉活用市町村]ではわずか9%しか、そうした効果を認めていませんでした。

また、「温泉で医療費を減らせる効果がある]と指摘したのは、[人口10万人以上の温泉活用市町村]でも6%でした。

とはいっても、同研究会では、①温泉を保健事業に活用している市町村、②温泉があっても保健事業に活用していない市町村、③温泉がない市町村、といった3分類をして[受診率]や[1人あたりの老人医療費]を比較したところ、いずれも「温泉を保健事業に活用している市町村の方が低い」との傾向にあることが判明しました。

温泉には、温泉地の環境も相乗するためのリラックス効果をはじめ、自律神経系・ホルモン系・免疫系などを正常化させる総合的な生体調整効果、などがあることが知られています。

超高齢化時代を迎える日本が、全国どこにでもある温泉を健康づくりに利用しない手はありません。

地域保健事業に温泉を活用する市町村が急増してきたのは、平成5年ごろからで、今回の調査でも、「温泉があってもまだ活用はしていない」と答えた市町村の約3割が、これから活用したい意向をもっていました。

こうなりますと、[温泉の正しい入り方]も、いままで以上に啓蒙してゆく研究も不可欠でしょう。[21世紀の日本]を[湯浴で健康な高齢国家]にしたいものです。

 

 

 

※発行当時の原稿をそのまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。

 

 

 

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