『入浴福祉新聞 第8号』(昭和59(1984)年7月31日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
高齢者の高温入浴がいけない生理的理由
埼玉医科大学附属病院名誉病院長/東京大学名誉教授 医学博士 大島 良雄
寝たきり老人の入浴も「まずは清潔に」が第一の目的です。
しかし若い人と違って、十分注意すべき点が幾つかあります。
第1点は「深い浴槽は避けた方がよい」ことです。
深い浴槽に入りますと、身体にかかる水圧が大きくなり、特に四肢の軟部や腹部が圧迫され、横隔膜が上へ押しやられます。
すると心臓は圧迫され、静脈からの血液の戻りも急に増しますから、心臓に相当な負担が生じます。
水圧がかかっても、血液を圧送する動脈系は圧力に弱いのですが、静脈は弱くできていて、水圧でモロに抑えられてしまうのです。
2番目が「高温入浴はいけない」ことです。
人間は体温を一定に保っている定温動物で、周囲の温度変化に対し体内エネルギーを使い定温を維持します。
このエネルギー代謝量は酸素消費量に比例します。
そこで酸素消費量を調べて、環境変化の影響が一番小さい入浴温度を探ってみますと、35~37℃なのです。
つまりこの温度帯の入浴なら、体温上昇による体力の消耗や生理的変化がほとんど生じないと考えていいでしょう。
これを、冷たくも熱くも感じない温度、不感温度と称し、35℃~37℃以外の温度では、これより低くても高くてもエネルギー消費量が増加します。
高温入浴は血圧にも悪影響を及ぼします。
熱い湯に入ると交感神経の緊張が増し、一時的に末梢血管が縮み、初期血圧上昇をきたします。
温浴を続けているとだんだん血管が拡がり、血圧が下がりますが、水圧がかかっていますので、それほど下がりません。
しかし、皮下の血管が拡がり、血液が体表に集まるので、脳や内臓へゆく地の量は少なくなり、特に動脈硬化が起きている老人は注意を要します。
湯から出るといっきょに水圧がとれて、拡がった末梢血管へさらに地が集まり、脳へゆく地が減って卒倒することになるからです。
また、汗が蒸発すると体温を下げるのに役立ちますが、入浴中は汗が蒸発しませんから、お湯の体温上昇作用と相まって熱が体内にたまり、うつ熱状態をおこします。
老人は高温浴を避け、あまり長湯もしない方がよい、というのはこうした生理的な理由からです。
※発行当時の原稿のまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。
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