『入浴福祉新聞 第98号』(平成18(2006)年12月1日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
入浴介護にプラスしたい足裏快適刺激
末梢皮膚温が上昇し心拍と血圧は低下する
足裏を浴槽の底につけて入る和式入浴とは違って、仰臥の姿勢をとる訪問入浴介護は足裏のケアがしやすい利点があります。
東洋医学では、この足裏に重要なツボがあるとして、上手に指圧刺激をすることで体調が良くなるとされますし、また最近ではヨーロッパ式のフットケアも盛んになり、足裏マッサージが注目されるようになりました。
足裏マッサージやフットケアに強い関心を持っている医療機関の看護職のなかには、日常的なケアとして導入したい意向があるようですが、看護業務が多忙すぎるため、なかなか思うようにいかないのが現実です。
この点、在宅ケアは担当者が時間的な工夫をすれば実現できるはずです。
指圧やマッサージとは[機械や器具を使用せず、施術者の手指で身体に物理的な刺激を与え、良好な生体反応を起こす]といった定義ができますが、では実際に足裏を刺激するとどのような生理的な変化が生じるのでしょう。
本格的な臨床実験は少ないのですが、川崎医療福祉大学(岡山県倉敷市)の太陽好子さんらのグループが、「足底のタッチングによる末梢循環動態と主観的反応の変化」と題して研究に取り組んだことがあります。
被験者7名の平均年齢は約22歳の若い女性。快適な室温と湿度の実験室でベッド上に臥床し、眼を閉じて安静状態になっていただき、30年のキャリアがあるベテラン看護師が、両手の親指末梢部で被験者の心拍リズムに合わせ、足底の圧刺激を5分間続けたのです。
そして、[タッチング直前][タッチング終了5分後]それぞれの末梢血流量、手掌部の皮膚温、心拍数、血圧を測定してみました。
すると、末梢血流量は若干増加し、抹消の皮膚温は明らかに上昇。心拍数と血圧は低下傾向が認められた、というのです。
このうち開始前の皮膚温が24℃と28℃の被験者2名は、終了5分後に33℃になる著しい効果が現れました。
また、「タッチングを受けてどのような感じだったか?」という主観的な反応は、足のだるさが取れた…安心感が得られた…緊張が解消してリラックスできた…身体が温かくなった…など全員が肯定的な感想を述べたといいます。
足裏刺激は、自律神経を安定させる…副交感神経を亢進させる…その結果として内蔵の働きを良くしたり、…快眠を促す…などの報告もあります。
おそらく、足浴や入浴に足裏刺激をプラスすると、その効果はもっと向上するのではないでしょうか。
訪問入浴介護に従事されている方はぜひ、利用者の足を洗う際に、指圧やマッサージを意識的に心がけ、痛くない強さで固くなっている部分をほぐすなどのサービスも加えてほしい気がします。
太陽好子さんらのグループによる研究結果は、『川崎医療福祉学会誌』2003年第一号に掲載されています。『埼玉県立大学短期大学部紀要』第5号(2003年)の「足浴における指圧・マッサージ技法活用マニュアルの検討」も併せてお読みいただくと理解が深まります。
※発行当時の原稿をそのまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。