『入浴福祉新聞 第101号』(平成19(2007)年8月1日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
半身微温浴で安全快適な訪問入浴介護
心理的爽快感…内蔵機能の改善…認知症予防…
改めて見直したい入浴のさまざまな利点と効用
入浴には、①温熱、②静水圧、③浮力と粘性、といった3大作用があります。
温熱作用とは、湯温による身体への生理的影響で、42℃のような高温のお湯で入浴すると、交感神経が刺激され、血管や筋肉が緊張し、血圧は上昇してしまいます。
これに対して、38℃前後の微温浴をしますと、副交感神経が優位となり、血管は拡張して心身ともリラックス状態になります。
静水圧効果とは、水の圧力です。深い浴槽に入りますと、身体が圧力を受けて、静脈血の心臓への還流が促進され、体内の疲労物質を早く除去してくれます。しかしその一方で、深い浴槽では心臓に水圧が加わり、肺も押し上げられてしまうため、虚弱や病弱な方々には負担が大きすぎて好ましくありません。
浮力・粘性作用は、水中では身体の重さも軽減される反面、腕や脚を動かそうとすると、水の粘性で意外と力が必要になる、といったことです。この浮力・粘性作用を利用すると、身体を動かしにくくなった場合でも、動かしやすくなり、同時に筋肉の力を回復させることができます。
こうした入浴の3大作用を基本に据えながら、訪問入浴介護では、身体に温熱の過度な負担をかけない38℃前後の微温浴、胸部を圧迫させない仰臥式の半身浴を当初から大原則としました。
これに加えて、身体のエネルギーを多大に消耗させたり、多量の発汗を促してしまう長時間入浴ではなく、6分程度の短時間入浴。さらに、身体のバリアーである肌の皮脂分を取り過ぎない洗い方、なども、入浴介護の基本原則としてきました。
訪問入浴が採用している〔微温のお湯で短時間の半身浴をして洗いすぎない入浴方法〕は、いまでこそメディアなどで医師も盛んに注意を呼び掛ける健康常識になっています。
こうした安全な入浴方法を訪問入浴介護が実践していることで、かなり重い要介護者でも、医療器具を利用されている方にも、快適な入浴サービスを提供できるわけです。
訪問入浴介護は、清潔援助と心理的な爽快感の提供、といった側面だけではなく、入浴前後に看護職がバイタルチェックをしますし、複数の専門家が、利用者の全身を観察しますので、健康状態を的確に把握出来る利点もあります。
入浴をしますと、内臓機能は活発になって、食欲も出てきますし、排便や排尿の改善も期待できます。安眠効果も得られ、褥瘡の早期治癒や認知症予防にも可能性があることが、最近の研究で判ってきました。
日本の介護はいま、要介護者が住み慣れた自宅で質の高い生活を保障することが、最大の課題になっています。訪問入浴介護の利点を、さまざまな視点から見直しながら、さらに全国各地への普及が期待されています。
※発行当時の原稿をそのまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。