『入浴福祉新聞 第78号』(平成14(2002)年1月1日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
介護保険で家族が[お世話離れ]?
措置制度の時代でも、介護の対象者を[社会で支えてゆく理念]が底流にありました。介護保険の導入は、[介護福祉の社会性]をいっそう高めるための制度とはいえ、まだまだ心もとない気がします。
要介護度5の男性Hさんは、50歳代で脳梗塞となり、79歳の現在は、在宅で酸素を付けながら寝たきりの生活をされています。
ケアプランを私が担当し、訪問入浴…居宅療養管理指導…訪問看護…福祉用具レンタル…など必要と思われるサービスを組み合わせたつもりでした。
しかし、措置制度の時代に比べて、Hさんの満足度が向上したとは思えないのです。そのためか、月に1度くらいしか訪問できない私を、毎日のように心待ちにするようになりました。
サービスを提供する事業者がバラバラで、[みんなで自分のお世話蘇してくれている〕という実感が得られないためかも知れません。
Hさんのケースのように、ケアマネジャーを媒介にした[チームケア]の理想とは程遠いのが現実で、反省しながら改善策を考えているところです。
[介護の社会性]が強調されるあまり、家族に意識変化が生じ、対象者が依然より疎外感を味わうようになったケースも少なくありません。
人生の途上で、[障害を背負う]状態に陥った対象者が、障害を受け入れ、新たな生活を築いてゆくためには、制度の充実だけでなく、身体的にも精神的にも支えてくれる身近な人たちの存在が、きわめて重要です。
その役割を担うのは本来、配偶者や親、子供といった家族です。しかし、家族にもそれぞれの事情と人間関係があり、うまくいっている家族など滅多にないでしょう。そんななかで、介護保険制度が、[うまくいっていない家族関係]に拍車をかけている場合もあるのです。
同じ敷地内に4世代10人も暮らしていながら、主たる介護者とサービス事業者にまかせっきりにしながら、介護保険が導入された途端、これまで以上に手取り足取り介護を要求し、自分たちはまるで何もしなくなった、という家族に遭遇することも珍しくありません。
そうした家族には、ちょっとしたイベントを勧めることにしています。対象者の状態が安定しているなら、何人かの家族と一緒に温泉などへ行かせるのです。
そうしますと、「対象者の介護は保険の事業者がやってくれる」と、突き放して考えるようになった家族も、あらためてお世話に関心をもつようになり、対象者も満足するようです。
「介護保険で何もかもできるわけではありません」と言葉で説明するよりも、動機付けで理解していただくことが必要です。
※発行当時の原稿をそのまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。
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