『入浴福祉新聞 第133号』(平成27(2015)年7月1日号)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
日本人と入浴
お湯で明日への希望を育み続けた歴史 前編
そして世界に誇れる文化を築く
「水」や「火」は、世界の信仰を見渡しても儀式における重要な要素として用いられてきました。
日本でも信仰に支えられた「水による浄め」は古くから行われました。さらに、日本は火山大国でもありますから、各地の地中からこんこんと湧き出る「温かな水」に、畏敬ともいえる念を抱き「温泉」は、まさに「火」と「水」が融合した神霊からの授かりモノと考えられたのです。
この「火水」に入ってみると実に気持ちのいいことが体感できることから、温泉の利用も古くから行われていたようです。とはいえ沐浴や温泉浴に対して、宗教的な理論付けがされるのは、やはり日本に仏教が伝来してからでした。仏教の経典のひとつに有名な『温泉経』というのがあり、仏教徒が率先して、身体の清浄化や湯浴の効果を説くようになっていきました。
当時、病気は穢れであり、湯浴をすれば穢れを除去、すなわち病気は治る、と民衆に教えました。
その代表的な事例が、奈良時代に始まった「施浴」です。これは、仏教の救済思想と湯浴の効果を融合させた福祉活動で、らい病患者などの重傷者を寺院に連れてきて身体を綺麗にすることで、治療をしたのです。
その後「施浴」の対象者も実施する僧侶も多くなり、寺院には浴室が次々と建てられ、庶民がsン体を清潔にする機会にも恵まれていきました。公衆浴場に寺院風の建物が多いのは「施浴」が行われた古代寺院の浴室からきたためと言われます。
鎌倉時代になると「暖をとるための入浴」が注目されるようになります。最近まで続いてきた日本人の熱湯好きは、どうやら鎌倉時代が起源のようです。
さらに曹洞宗を開いた道元は、洗顔や口腔の洗浄も、大切な修行としたため、身体への水や湯の使用は、宗教心に清潔観念が大きく加わりました。
と同時に、世間では温浴に遊興的な要素が生まれて行きます。浴室が設けられる裕福な屋敷も現れ、酒や食事だけでなく、お風呂で客人をもてなす「風呂ふるまい」がステータスとなりました。
後編に続く
※発行当時の原稿をそのまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。