

『入浴福祉新聞 第57号』(平成8(1996)年9月1日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
介護のポイント[背中!]と触れ合える入浴福祉の凄さ
〔だっこ〕より〔おんぶ〕の習慣があるためか、私たち日本人は少なからず「対面恐怖」のようなところがある。であるから、なおさら、「背中の文化」を発展させた、ともいえなくはない。
子供は、いつもムッツリしているオヤジの背中を見て育ち…羽織の後ろに家紋を記して緊張感をそれとなく示したり…背中一面のイレズミで、ただならぬ存在を誇示したり…する。
世界に誇る日本刀の切れ味は、実は刀の背の部分に秘密が隠されているそうだ。日本の書籍は作りがしっかりとしているが、これも〔書籍の背〕を重視する製本技術のおかげであろう。和服の美しさは、腰から背中を飾る〔太鼓結び〕にある。
ヒトの背中は、身体の部位のなかで面積が最も広いのだが、ほとんど動かすことができず、無表情だ。しかも冷遇されている。背中が痒くなっても、背中に痛みが生じても、自分の手がうまく届かない。何者かの攻撃に対しても、背中は無防備である。
ちょっと前までの日本には、銭湯で「御背中を流しましょうか」などという、粋なコミニケーションがあった。これは、〔背中の意味〕を知りつくした日本人の美学を象徴する習慣だったのかもしれない。
ふだんは無視されている背中…自分ではどうにもできない背中…寂しそうな背中…を媒介にして、つまり他人が他人の背中に手を触れることで、最高の交流をしようとしたのではあるまいか。
こうした〔背中の文化〕に思いをはせながら、移動入浴車の介護浴槽の構造をかんがえてほしい。対象者の背中に、介護者がもろに触れ合えるようにできているのである。
親は子供が病気になると、背中を一所懸命にさする。最近ますます見直されている東洋医学では、背中を重要視する。ところが、現代の医療機関では背中のケアをするどころか、背中を床ズレだらけにしかねない。
〔制度として背中の介護〕をたっぷり可能にしているのは、いまのところ、訪問入浴介護だけである。
介護浴槽の利点を、もっともっと活用し、対象者の背中に、希望と元気をいっぱい込めてさしあげる介護をしてほしいものである。
(露)
※発行当時の原稿をそのまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。
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