『入浴福祉新聞 第24号』(昭和63(1988)年9月15日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
65歳の嫁を介護する91歳のおばあ様
群馬県吉井町社会福祉協議会 会長 田村 柳治
オペレーター、看護婦、ヘルパー、そしてボランティアの4名で寝たきり高齢者宅を訪問する移動入浴車に随行した。
入浴車は時速35kmぐらいの速度で、曲りくねった山間の町を走ってゆく。
梅の花は満開で、静かな入浴日和だ。
目指すC子さん宅は、小高い山の頂上にある大きな農家づくりで、眼下には谷間がのぞき、黄金色の夏みかんが春の陽光に照り映えている。
庭へ入ると、91歳のおばあ様が「どうも有難うございます」と笑顔で迎えてくれた。
実はこのおばあ様が、65歳の寝たきりのお嫁さんを介護しているのである。
話には聞いていたが、実際に会ってみると、やはり私も戸惑いと驚きを感ぜざるを得ない。
C子さんは、寝たきりになる前、家の廻りを徘徊するなど1年ほど痴呆状態が続き、その後寝込むようになった。
すでに5年を経、身体の自由はいっさいきかず、言語障害も出てしまっている。
御主人も65歳だが、元気に会社勤務。
長男さんはJRに勤めていて、ちょうどこの日は休暇。母親であるC子さんの病状を、慈しみの情を込めて語ってくれた。
「孫嫁が私と一緒に看病をよく手伝ってくれましてねぇ。大助かりなんですよー」
とおばあ様が、孫嫁を褒める。孫嫁さんは元看護婦で、見るからに気持ちの優しい綺麗な人だ。
この家族は昭和62年度の吉井町老人福祉大会で“優良四世代家庭”として町長表彰を受賞、おばあ様も高齢者表彰を受けるなど、町の評判ファミリーなのである。
入浴で訪れても、おたがいが深い思いやりをもち、たとえ寝たきりを抱えていようとも、暖かな雰囲気を少しも失わず、家庭愛に包まれていることが判る。
湯につかり、気持ち良さそうなC子さんの顔、そして楽しそうに協力してくれる家族。
この光景に接し、世俗の垢を洗い落としたような、すがすがしい気分になった。
(昭和63年3月11日記)
※発行当時の原稿をそのまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。
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