『入浴福祉新聞 第69号』(平成11(1999)年9月1日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
介護保険で日本経済は活気づくか?
異業種参入が大きな話題になる反面 利用者保護対策は遅々として進まず
来年4月からの介護保険制度が秒読みとなり、日本列島は福祉をめぐって熱気をおびてきました。
すでに、都道府県による[介護保険居宅介護支援事業者や居宅サービス事業者]向けの説明会が行われ、6月から指定申請の受け付けを始めた県もあります。10月からは対象者の利用申請もスタートし、1人ひとりの介護計画を作成する段階に入るのです。
事業者向け説明会は、どの都道府県でも予想通りの大入り満員となり、しかもさまざまな業種の企業や自営業者が、新しいビジネスチャンスとして[介護福祉]をとらえていることが判りました。
とりわけ、訪問入浴やホームヘルプの分野では、すでに民間が主役になった面もあり、介護保険をきっかけに異業種参入が突出しているようです。
だいぶ以前から進出を始めていた生協や農協をはじめ、冠婚葬祭業・・・タクシーなどの運輸関係業種・・・警備保障会社・・・ビル管理会社・・・工務店・・・クリーニング店・・・家具販売店・・・などなど、ありとあらゆる業種が参入を検討したり、すでに手掛け始めたりしています。
巨大電機企業グループ傘下の企業が大手の訪問入浴サービス会社と提携しながら子会社を設立したり、医療事務員を養成してきた学校が、ヘルパー派遣事業に進出した後、大手の介護サービス会社を吸収合併したり、といったダイナミックな動きも話題となりました。さらに、通信教育や電鉄の大手も介護事業に進出するといった話も伝えられています。
もともと、介護保険制度の狙いのひとつに、[民間活力のいっそうの導入]がありましたから、こうした民間企業の動きは歓迎すべきことなのでしょう。
介護保険制度になると、初年度で約5兆円、近い将来は10兆円規模の市場になる、とされる[産業]だけに、新規参入は当然でもあります。
しかし、肝心カナメの保険報酬がいくらになるのかの詳細はまだ未定。説明会に参加した企業の社員らが、都道府県の担当者にすこし突っ込んだ質問をすると、「まだ未定・・・」「国が検討中・・・」「・・・という予定になりそうです」といった答えしかできない面がたくさんあるため、張り切っている企業側は意外にガッカリしているようで、民間活力が本当に導入できるのかはまだ未知数、といった不安もぬぐいされません。
しかも、事業者申請の書類作成がけっこう面倒なこともあり、申請受け付けを始めた都道府県の多くは、意外に出足が鈍くて拍子抜けした、といった話も伝えられているくらいです。
しかし、いずれにしても、公民ともに、介護事業への投資を全国的に活性化すれば、ムダな土木公共事業にお金を使うよりも日本経済も活性化する、といった〔福祉経済論〕が注目される時代になっています。国も都道府県市町村も、ただ介護保険の枠内だけで考えるのではなく、幅広く介護福祉を[産業]として捉えてゆくべきでしょう。
介護保険制度によるサービスの充実に期待している中で、もうひとつ気になるのが住民参加型団体の意向です。無償で活動をしてきたボランティア団体でも、所定の基準を満たせば介護保険の指定事業者になれるからです。
そこで全国社会福祉協議会が、在宅サービスを実施している全国の1183団体にアンケート調査をしたのですが、「介護保険事業者の指定を受けたい」が29%、「介護保険事業者としてではなく、独自の活動を続ける」としたのが32%、残りは無回答や未定でした。つまり、3分の1ずつに考えが分かれている現状です。
非営利団体による福祉活動は、決して無視できない実績を築いてきたわけで、介護保険制度の中での位置づけをどうするかも、議論してゆく必要があるでしょう。
それに、異業種の参入が大きな話題になる反面、介護福祉の質を客観的に評価するシステム作りや、サービスへの苦情処理体制や福祉オンブズマン制度など、利用者保護の観点からの新しい動きは遅々として進んでいないことは、かなり問題のような気がします。
※発行当時の原稿をそのまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。
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