介護の現場には様々な声があふれています。
介護に携わるスタッフの声、介護サービスを受けるご利用者の声、それを見守るご家族の声。
介護が必要になった方々に対して交わされる言葉の数々は優しく、切実です。
創られたものではなく、誰かが実際に発した「Voice」は人の胸を打つことがあります。
ここではそんな声の数々をご紹介していきます。
家族のたより H・N
「もしもし、あぁ今、ばぁちゃんば、風呂入れぎ来てくれとらすけん後でかけて。」
ブチッ。ツーツー。
嫁ぎ先の福岡より水俣の実家に電話をかけると、母が受話器ごしにまくし立てて、電話がきれた。
私の実家には99歳の寝たきりのばぁちゃんがいる。
ばぁちゃんといっても祖母ではない。祖母の姉にあたる。私の母からすれば、伯母にあたるのだが、子どもがいない為、一緒に暮らしてきた。
そのばぁちゃんが寝たきりになって、もう15年程たつ。その前は、本当のばぁちゃん(祖母)、その前はじいちゃん(祖父)というように、なぜかうちは寝たきりの統らしく、私が物心ついた時から母は、ずーっと誰かの介護をしている。その間色々な制度やシステムが導入され、今まで介護といえば各家庭の個人の問題であったのが、公・地域で取り組んでもらえるようになった。訪問入浴もその1つである。
「寝たきりで体もくにゃくにゃのばぁちゃんば風呂に入れるとは、おおごとやろ?」との私の問いに、
「よかー風にして入れてくれらすとよー。皆さばけとらすもん。ばぁちゃんの冷えんごて、窓ば締め切って自分達ゃ汗ば、ダラダラ流しながらおもか、ばぁちゃんば入れらすとよ。
『Hさーん、Hさーん(ばぁちゃんの事)寒なかですか?暑なかですか?』ち、物もなーんも言わんばぁちゃんに一生懸命声ばかけてくれらす。ばぁちゃんも気持よかとやろうね、普段は、いっちょん表情の無かばってん、風呂につかった時は、エビスさんのごつしとる。そん時は、皆、喜んでくれらすとよー。」
母の感謝の言葉は止まらない。それなら職員の方々に感謝感激雨あられと伝えれば・・・と思うのだが口べたな母は、きっと「どうもお世話になりました」ぐらいしか伝えてないだろう。
実際、体重38キロの母が53キロもある、寝たきりのばぁちゃんの介護を自宅で1人で行うのは、かなり大変だ。
巷では、母と子のひきこもり育児による問題が世間を騒がせているが、ひきこもり介護という言葉も、これから現れてくるのではないだろうか。そんな中、自宅に訪問入浴車と職員の方が訪ねてくれ、僅かな時間でもふれあって下さる事は介護される者はもちろん、介護する側にも大きなメリットがあると思う。
ばぁちゃんが笑った。風呂につけたら、『あー』っち声の出た。口ば、おちょぼ口にした。こんなささいな事でも笑い合える人がいるのは、心強い。
今回、この文書を書くにあたり、母から依頼があった。「本当にいつもニコニコして、よか風にしてくれらすとよー。」と何度も繰り返し電話口で言う。「なら、自分で。」と言えば、文章は書きなれんので胃が痛くなるそうだ。母まで胃を悪くして寝込まれると大事と思い、娘の私が代筆させていただいた。
たくさんの「笑み」をいっぱいのせて、訪問入浴車は、今日も水俣の町を走っているのだろう。
職員の皆さん、本当に有り難う。
許可をいただきまして、水俣市社会福祉協議会 入浴スタッフ一同様が発行されている
『水俣市入浴車だより 秋号(平成14(2002)年5月発行)』から、掲載させていただきました。 |
訪問入浴介護に関するエピソードなど、皆様の“Voice”をお寄せください。お待ちしております。
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