『入浴福祉新聞 第9号』(昭和59(1984)年11月10日発行)より
過去の入浴福祉新聞に掲載された記事をご紹介します。
発行当時の入浴や福祉等の状況を少しでもお届けできたら幸いです。
老人介護の心得
大阪府立大学社会福祉学部教授/京都大学医学部老年科講師 医学博士 奈倉 道隆
老人のお世話をする場合に大切なのは、介護者が持ちがちな「年は取りたくない」「かわいそうだ」といった抗老意識をまず捨てることです。哀れみや同情は、相手を見下していることで、老人の尊厳を認めていないからです。
老人になると身体の機能は衰えますが、逆に総合判断力や洞察力など高度な精神の働きは高まります。
そうした「老いの素晴らしさ」を見出して介護にあたってほしいのです。
つぎに重要なのは、老人に安らぎを与える「養護」と、残存する機能を維持向上させる「再開発」を両立させることです。どんな老人でも、誰かの助けを借りたいとする「依存欲求」と他人の世話にはなりたくないという「自立欲求」があります。
入浴福祉はこの2つに応えようとするもので、依存欲求を大事にしながら自立欲求を浮かばせるのが目的でしょう。
しかし実際の介護のなかでは、双方のバランスの取り方が大変に難しいのです。
なぜなら、老人は子どもと違って個性的です。
一人ひとりの老人は、身体面、社会面、家庭面、精神面、経済面など、いろんな側面をもち、しかもそれらが複雑に融合しながら存在するからです。
そこで介護者は様々な側面を統合的にとらえ、一人ひとりの老人の全体をケアーしてゆく心がまえが必要なのです。
入浴福祉は、お風呂と対話とスキンシップによる身体的効果もさること、家族が専門家と共同作業することで意識が変化してゆきます。
多彩な相談がもち込まれるようになり、まさに“統合的援助としてのケアーワーク”になってきます。
ただ一番残念なのは、もう少しリハビリを導入すると、もっと良くなる老人が多いのだが…という点です。リハビリは本人の意欲が前提ですが、入浴によってせっかく浮かんだ自発性をそのままにしておくのは惜しいのです。
入浴福祉をリハビリにどうつなげてゆくか、検討を重ねる必要があるでしょう。
家族だけで世話をしていると、「もうおじいちゃんの顔を見るのも嫌」といった危機的な状況も生まれます。
そんなとき、専門家が介在することで、家族はたいへんな余裕と励みを与えられるのです。
老人は死という終末を迎えますが、死とは生の完成を意味します。
どうか最期まで、温もりのある援助の手を差し伸べて下さい。
※発行当時の原稿のまま掲載しております。何卒ご了承の程お願い申し上げます。
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